3. 知的所有権

 プログラム,データベースなどの知的創造物は,その製作に多大な時間,コスト,労力を要します。しかし,いったん完成すると,容易に複製・模倣したり,盗用することができます。そこで,製作者の知的創造活動やそれがもたらす利益を保護するために,「知的所有権」(「知的財産権」,「無体財産権」ともいう)が認められています。

 知的所有権には,特許権,実用新案権,意匠権,商標権などの「工業所有権」と著作物を保護する「著作権」があります。

 「権利」とは,「他人に対して当然主張しうる自分の利益」,「法によって保護される利益」のことです(法学の立場では,「行為の法的正当性」と定められています)。今までに行われてきた裁判の判例や各法令などによって,どのような権利であれば裁判において合法と判断されるか,逆に言えば,どのような権利の主張は無効と判断されるかについての了解は得られています。しかし,情報ネットワーク固有の権利については,権利が法律的に意味をもって主張できることなのかどうかは,実際に裁判が起こってみないと誰にも分からないのが実情です。

 

 

 


3.1. 著作権とは何か

 活版印刷の発明以前は,本を複製することは簡単ではありませんでした。しかし,活版印刷が登場して,大量の本を簡単に複製できるようになってから,価値のある本には,その模造本が必ず出回るようになり,著作者が必ずしもその利益を得ることができないようになってしまいました。そこで,このような不合理な状況を解消するために,「著作権」(copyright)という考えが登場しました。

 著作権は,元々は「著作者に無断で複製を作らせない権利」であり,「複製によって生じた金銭的利益を著作者に還元させる権利」でもあります。また,「著作権」は売買の対象になります。

 1886年にスイスのベルヌで締結された「著作権保護同盟条約」(通常「ベルヌ条約」と呼ばれる)に従って,各種の著作権を国際協力によって保護することを目的とした国際組織が作られ,日本は1899年に加盟しました。この条約は,「内外人平等」(同盟国にある著作者は,すべての加盟国においてその国の著作者と同じ保護を受ける)と著作物の完成により権利が発生する「無方式主義」をとっています。また,権利の保護期間は50年です。

 米国やラテンアメリカ諸国(ベルヌ条約に未加盟)が採用していた,登録とともに権利が発生する「方式主義」と上述の無方式主義の橋渡しをするのが,1952年に締結された「万国著作権条約」です。日本は,1977年にこの条約を批准しました。現在,世界中のほとんどの国が条約に加盟しています。この条約では,著作権を主張するのに,「©表示」(copyrightの略号©,著作者の名前,発行年の組合せ)が必要であり,権利の保護期間は25年です。なお,©表示の著作者の名前の部分は,著作権者(例えば,出版社)の名前になっている場合があります。「著作者」とは著作物を創作した者であり,「著作権者」とは著作権を有する者です。通常は,著作者と著作権者は一致していますが,著作権は譲渡することができるので,一致しない場合もあります。

 

 

 


3.2. 著作物とは何か

 著作権法211号によれば,「著作物」とは「思想または感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術または音楽の範囲に属するもの」をいいます。具体的には,

(1) 小説,脚本,論文,講演

(2) 音楽

(3) 舞踊または無言劇

(4) 絵画,版画,彫刻

(5) 建築

(6) 地図または学術的な性質を有する図面,図表,模型

(7) 映画

(8) 写真

(9) プログラム

を指します。

 「著作権法」はアイデア,思想,概念そのものは保護の対象としません。従って,プログラム言語とその文法,インタフェースやプロトコルなどの規約,アルゴリズムは著作権法によって保護されていませんでした(現在でも)。ところが,1985年の著作権法の改正により,「プログラム(ソフトウェア)」は保護の対象になりました。プログラムの複製権は著作者(著作権者)が保持しますが,プログラムの複製物の所有者が損傷や消滅に備えてバックアップ・コピーを取ることは著作権の侵害とはなりません。もちろん,プログラムの複製物またはそのコピーを無断で貸与することは,著作権の侵害になります。

 「データベース」は,単なる情報の無秩序な貯蔵庫ではなく,一定の秩序を工夫して情報を配列したものです。データベースも著作物として保護されます。データベースの場合,一括コピーすることは著作権の侵害になります。また,部分的なコピーであっても,それを再利用することは著作権の侵害になります。

 


3.3. 著作権にはどのような権利があるか

 著作権は,いくつかの権利からなっています。

 ○ 著作者人格権

   著作者の人格を保護する権利で,「公表権」,「氏名表示権」,「同一性保持権」の3つがあります。これらの権利は,他人に譲渡することはできません。

 ○ 複製権

   著作物を複製する権利のことで,著作権の最大の目的です。著作権の概念で「複製」に当たるのは,あくまでもその表現内容であって,どのような媒体上にあるかということは問いません。

 ○ 公衆送信権

   著作物を公衆に対して送信する権利です。

【著作権法217号の2(「公衆送信」の定義)】

公衆によって直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信(有線電気通信設備で,その一の部分の設置の場所が他の部分の設置の場所と同一の構内(その構内が二以上の者の占有に属している場合には,同一の者の占有に属する区域内)にあるものによる送信(プログラムの著作物の送信を除く)を除く)を行うことをいう。

 ○ 上演権,演奏権,口述権,展示権

   著作物を公衆に対して上演したり,演奏したり,口述したり,展示したりする権利です。

 ○ 上映権,頒布権

   著作物を上映,展示したり,その複製物を頒布する権利です。例えば,映画が記録されたフィルム,ビデオテープを購入するだけでは,自宅で上映して家族で楽しむような用途に限られます(上演権を購入していないから)。また,その映画を複製して他人に頒布することもできません(頒布権を購入していないから)。

 ○ 貸与権

   映画を除くすべての著作物について,それを貸与する権利が認められています。

 ○ 翻訳権,翻案権

   元の著作物に対して,「翻訳する」,「編曲する」,「変形する」,「脚色する」,「映画化する」などの権利です。

 ○ 二次的著作物に対する権利

   「二次的著作物」とは,翻訳,翻案などが行われた後の著作物です。この著作物に対する権利は,翻訳,翻案を行った者だけでなく,元の著作物に対する著作権を有する者(「原著作者」という)も保有します。

 


3.4. 著作権の制限

 著作権を不当に強く主張すると,著作物の流通に障害が生じます。そこで,著作権法では,いくつかの場合について,著作権が行使できないような制限を設けています。但し,いずれの場合でも,著作権の制限は「著作物の適切な利用」を目指しているのであって,著作権に穴を空けることで不当な利益を促しているのではありません。

 ○ 引用

   「引用」とは,「他人の著作物の一部を報道,批評,研究などの目的のために利用する」ことです。引用するときは,「出所」,「著作者」,「著作権者」を明確にし,自分の文章と引用された文章に明らかな区別をつけ,さらに,引用した部分が全体の20%を越えないようにする必要があります。また,論旨の展開の上でその著作物を引用する必然性があり,自分の言わんとする内容と比較して,引用する著作物が従たる関係になければなりません。なお,公表されていない著作物は引用の対象になりません。引用は著作権法32条に規定されており,許諾の必要はなく,また,補償金を支払う必要もありません。

【著作権法321項】

公表された著作物は,引用して利用することができる。この場合において,その引用は,公正な慣行に合致するものであり,かつ,報道,批評,研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものでなければならない。

 ○ 私的使用

   「私的使用」とは,「個人及び家庭内での利用のためだけに複製する行為」を指します。著作権法30条に規定されており,許諾の必要はなく,また,補償金を支払う必要もありません。

 ○ 教育目的,教育機関における複製

   著作権法333435条に規定されています。33条では,学校教育上必要と認められる限度において,教科書や指導書への掲載を認めています。但し,補償金の支払いが必要です。34条では,公表された著作物を学校教育を目的とした放送番組で用いることを認めています。但し,補償金の支払いが必要です。35条では,教育を担当している者が授業で用いる場合に,複製を認めています。但し,著作権者の利益を不当に害することがあってはなりません。

【著作権法35条(学校その他の教育機関における複製)】

学校その他の教育機関(営利を目的として設置されているものを除く)において教育を担任する者は,その授業の過程における使用に供することを目的とする場合には,必要と認められる限度において,公表された著作物を複製することができる。ただし,当該著作物の種類及び用途並びにその複製の部数及び態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は,この限りではない。

 ○ 図書館での複製

   研究,調査を目的とした複製については,一人につき1部に限って複製を作成することができます。また,図書館が資料を保存するため,あるいは絶版となっている資料を閲覧させるために複製を作ることも可能です。著作権法31条に規定されており,許諾の必要はなく,また,補償金を支払う必要もありません。

 


【課題】

 I先生はパソコンを使った教育を行おうと考えています。「専門書や雑誌の図表をスキャナで取り込んだものやインターネット上のさまざまな情報を張り込んだ教材を作り,それを生徒の使用するパソコンにダウンロードし,それを見せながら授業を行いたい」のですが,ここで問題になるのが著作権です。どのような条件なら,どこまで許されるのでしょうか?

 著作権に関するI先生の基本的な考え方は,「すべての著作物は先人の著作物を踏まえて創られているのだから,権利の主張はほどほどに」というものです。先人の業績には無関係に創られるように思われがちな文学や芸術の場合でも,先人の業績を踏まえて創られるものは数多くあります。「他人の作品とはまったく異なる作品を創ることにこそ,その意義がある」はずの文学・芸術の分野でさえ,実際には先人の業績なしには,新たな創造は難しいのです。先哲の業績にまったく依存しない科学的・技術的業績などあろうはずがありませんが,著作物にも同じことがいえます。

 このようにI先生は考えて,パソコンを使った教育を行うつもりでいます。また,作成した教材を他校の先生方にも無償で配り(インターネット上で公開し),利用者を増やそうと考えています。これは本当に許されるのでしょうか?

 

1.     教材は著作物か

2. 複製権の侵害にならないか

3. 公衆送信権に抵触しないか

 


3.5. 雑多なこと

 ○ 引用に関する最低限の作法

   他人の著作物を自分の言葉に直して引用する場合と,文字通りの元のままの表現で引用する場合があります。いずれの場合も,元の内容がどのようなものであったかを誰もが自分で確認できるようにすべきです。従って,巻末などに置く参考文献一覧に,書誌データを示すことが最低限の作法になります。例えば,書物の場合は

著者,書名,(ページ,)出版社,出版年

と書き,論文の場合は

著者,論文名,雑誌名,巻,(号,)ページ,出版年

と書きます。通常,著者が先頭に来ますが,それ以外は,いろいろな流儀があります。

 ○ リンクと引用

   インターネット上において,自分のホームページから他人のホームページにリンクを張ることを引用といえるかどうかについては,決着はついていません。いずれにしても,その方法によっては,リンクが違法となることがあります。リンク先が自分の著作物ではないことを明示してリンクさせ,画面全体がリンク先にジャンプするような方式の場合には,多分問題はありません。そうではなく,自分の画面が表示されたまま,リンク先の画面またはその一部が表示されるような場合には,仮にその量が引用として適切であったとしても,出所が表示されていなければ,違法な引用になります。また,その量が引用の範囲を超えていれば,例え出所が表示されていても,違法行為となるでしょう。

 ○ 著作権フリーの素材の取扱い

   現在,ホームページ作成のための素材として著作権フリーの素材集が販売され,あるいはインターネット上で無料で提供されています。Copyrightという言葉を皮肉って,Copyleftという言葉を付した著作物をインターネット上で見ることもあります。このような素材の取扱いはどのようにしたらよいのでしょうか。著作権フリーの素材は,文字どおり著作者が著作権を放棄したものであるかというと,法律上は必ずしもそうは解釈されていません。ここでいう著作権フリーとは,著作権の放棄ではなく,誰でも自由に使用することを認めたに過ぎないとされています。従って,著作権フリーの素材を使用する際には,最低でも誰の作品であるかを明示すべきでしょう。仮に,著作権の放棄が認められたとしても,著作者人格権が著作者に残っています。その意味で,著作者の意に反した公表や改変は許されないということになります。

○ Business Software AllianceBSA

著作権法に違反するソフトウェアの大量複製の情報を受け付ける団体として,「Business Software AllianceBSA)」があります。BSA は,コンピュータソフトウェア業界の発展に寄与するために,著作権などの知的財産権の保護強化を図ることを目的として,1988年に米国の非営利団体として設立されました。BSAは各国の関係政府機関や諸団体と協力して,ソフトウェアの権利に対する理解を深めていくための啓発活動や違法コピーの調査・撲滅と著作権保護の推進活動を,北米,南米,欧州,アジアの65ヶ国以上において展開しています。BSAの活動の詳細は,そのホームページ

http://www.bsa.or.jp/

で見ることができます。

 

参考文献

荒竹純一,事典 知らないと危ないインターネットと著作権,中央経済社,1997.

辰巳丈夫,インターネット時代の書法と作法,サイエンス社,1999.

辰巳丈夫,情報がひらく新しい世界3 情報化社会と情報倫理,共立出版,2000.